『思い出さがし』 141・運動会で学ぶ③
「先生、友達や親は『頑張った』『よくやった』『いい走り方やった』『来年頑張ろう』『君なら今度は1等だよ』って言ってくれるけど、だれも『悔しかっただろう』って言ってくれなかった。何でや?負けて可哀相って思ったからか?可哀相ってどういうこと?ぼくが遅いのでなくて他の組の子が速すぎるんやと言われて、もっと悔しかったんや、先生、それも分かってくれる?」と鋭く突っ込んで来るH君が大きく見えました。中庭のコスモスの花が咲き始めていました。「あの時、H君は白いラインをじっと見ていたよね。言われた言葉を何度も思い出して悔しさをガマンしてたんじゃないのかな?」「先生、覚えていてくれた?分かってくれていた?本当に?」H君は「本当に」を何度も重ねて口にしました。頷く私の横でコスモスの花が揺れました。「先生、ありがとう」と走って行く彼の動きで生まれた風圧がコスモスの花をしなやかに揺らしたのでしょう。さすが前担任の先生が言われた様に鋭い論客だと思いました。2年生なんだからと思っていい加減な対応はできないなと覚悟しました。次の日、約束のリレーの選手を決める時間になりました。みんなの目はH君に集中しています。「女子は決まりましたが男子のあと1人を決めましょう」と私が言ったと同時にH君が「ぼく出ます!でも、もし抜かれて負けたらぼくと一緒に『悔しい!』と言って下さい」と言うと、みんながキョトンとしたあと、クラス1のムードメーカーのM君の「おれ、リレーに出れなくて『悔しい!』の声に大笑いでした。
2014年10月17日 23:21