『思い出さがし』 133・夏休み④
急に車内が暑くなって目が覚めた母と娘は、運転手の父親がいないのに驚いて「お父さん!」と2人で大騒ぎ。男の子が窓から顔を見せて「パンク。この車、なんか針みたいなもんの上に乗ったみたいってお父さんが言って今直してるよ。」「なんでクーラー消したんや。暑いがいね。」て娘、母親も車から降りて来て「あ~あ、外のほうが涼しいわ。まだ時間かかるんやってら道の隅っこを歩いて山の水が出とる所ないか探して来るよ。さっ日陰に行こう。」と娘を促して湧き水を探しに歩き出したのです。息子はそんな母と姉を見ながらちょっと動きましたが、タイヤ交換に汗を流している父親の側から離れませんでした。車の下にもぐって何やら力いっぱい工具を動かしている父親をじっと見続けたのです。やがて母と姉が「やっぱりクーラーがいいわ。まだできんが?」と戻って来たのです。「出かける前にきちんと点検しとかんからや。」と母。「もっと早く直せんが。」と言う姉。2人の声を聞きながら、息子はポタポタと顔から首すじを伝わって落ちてくる父の汗を拭き取るのでした。夏休みが終わって2、3日たった頃、4才の息子は私にこう言ったのです。「園長先生、お父さんの汗とってもキレイやった。お父さんのこともっともっと好きになった。」彼とバイバイして私は泣きました。そしてその話をお母さんに伝えました。「すてきなお子さんを持って幸せですね、と言って下さると恥ずかしいです。主人に素直になれない自分を反省しました。娘も息子のように育ってくれるでしょうか。」「反省の後に進歩があるのです。応援しています。」その息子も幸せな父親になっていると思います。
2014年08月23日 23:30