『思い出さがし』 215・小さな親切⑤
「先生、ぼく〇いっぱいつけてもらって嬉しいし、気分良かったけど、りょうくんのことばを聞いてこんな運動でみんなが本当に心の優しい親切な人になれるんか分からなくなった。」はじめくんはそう言って自分の耳に手を当てて天井を見上げていました。わか子さんは「ハイ。」と手を上げて、「私も同じです。最初は、いじめる子がいっぱい出て来て新聞なんかでニュースになったんで子ども達がどうしたら相手のことを考えて優しくなれるかって考えたんだとお母さんから聞いて、そうやなと思ったんです。お母さんは、いじめっ子なんかいない学校にするための運動だと言ってくれました。私は親切にすることが当たり前だと思っていたので、いじめっ子のことまで分かりませんでした。でも私は」と言って口ごもり間をおいて決心した様に次の様な光景を話してくれました。「この間、給食前の手洗いに行った時、ある子がすぐ後にいて、私が止めようとしていた水道の栓をまわして止めてくれました。そして、『これ親切やね。ね、ありがとう言って!』と言われました。そのクラスでは、ありがとうと言われたら〇をつけるのだというのです。私は心からありがとうと言えませんでした。ありがとうと言ったあと、私は泣きそうになりました。自分の事は自分でやろうとしている人のすることを横取りすることは親切ではないと思います。だから、早くこの運動がなくなって欲しいです。」この運動を最初から疑問に思っていた私の心にスーッと入って来る言葉でした。「先生、ボク分かる。だって、親切って考えとったら、ケンカも思い切ってできんし、本当の友達の気持ち分からんくなるもん。」「そうや。毎日毎日、親切の壁に囲まれて窮屈やった。」そんな子が男の子に沢山いました。
2016年04月17日 23:58