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前園長日記/和田節子ライブラリー

『思い出さがし』 181・「はるかに」ということば

結婚して56年も過ぎたが、結婚式の前に届いた電報を思い出す。小学校の教師として最初に出会った子ども達はO小学校の3年生だった。漁師町の子ども達は気が荒く、指示を余り聞かない子が多いということだったが、明るくて美人の多いクラスだった。その上、男の子は活動的で花壇の手入れやニワトリの飼育にも協力的だった。昼食は家へ食べに帰る子が多く、弁当組は、みんなおにぎり弁当だった。その中にM君がいた。小さくて勉強が嫌いで、同じ仲間のA君と昼食後はよくニワトリ小屋に入って卵を取って来て飼育係をしていた私の所へ持って来て、必ず1個ずつ生卵を飲んでいた2人だった。それは3人の内緒ごとだった。秘密を持つと何となく連帯感が出て来て3人はよくアイコンタクトで意思が通じる様になった。算数の苦手な2人は、文章題になると2人で目で合図をして「分からんなぁ、ボクらに当てんといて。」と伝えていた。何とか言葉を出させたい私は、「はい、この問題を大きな声で読める人!」と言うと一瞬戸惑った2人が元気よく手をあげた。「はい、A君。」「秋子さんは立ち幅跳びで1m17cm跳びました。冬子さんは98cmでした。2人の差はどれだけですか。」すかさずM君が、「はい、秋子さんの方がはるかに多いです。」みんな大笑い。空気が和みました。それから2年後、5年生になったM君から、「はるか海上よりお祝い致します。M」という電文をもらった。父と漁に出た日のことだった、ということだった。
2015年08月21日 23:58

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