『思い出さがし』 152・立ち直る力②
世代交代がうまく行かない家庭の中で一番苦しむのは次世代の長です。農家の長男に生まれた青年A君は私が6年生を担任した時の優しい男の子でした。大声に弱くて怒鳴り声が聞こえると青ざめて、すぐ私の横に飛んで来る子でした。春と秋の初めの農繁期は仕事を手伝っているのでしょう、時々居眠りをする子だったのですが、その姿が可愛くて黙って見ていました。時々、鉛筆を指からポロッと落として、ハッとして又、握り返して数文字書くのですが、すぐ眠気がやって来るのでしょう、時々、鉛筆が床まで落下して小さな音を立てました。慌てて周りを見渡す姿は彼の人柄の良さをにじみ出していました。それは決まって国語の時間の漢字練習の時でした。そんな彼を見つけた後ろの席のO君が「居眠り坊主」と小声で舌打ちしながら言う声が何人かに伝わりクスクスと笑い声が聞こえだした頃、チャイムが鳴り長休みの時間になりました。A君の隣りに座っていたNさんはA君が田んぼの手伝いをしているのを知っていたのでしょう、「休み時間20分あるし、ゆっくり寝とった方がいいよ。」と声をかけました。両手を前に出して深呼吸をして彼は「ありがとう。」と言い机にうつ伏せになり体を震わせました。泣いていたのです。Nさんのさり気ない優しさが嬉しかったのでしょう、弱い様に見えても優しさをしっかり受け止める子は立ち直る力があることがわかる事件が起きました。
2015年01月17日 23:50