『思い出さがし』 115・表現会で学ぶもの④
小学校を前にして、自分の思いを声に出せる子になってほしいという先生の願いがその男の子(K君)に 届いたのでしょうか、日に日に声が出るようになりました。でもまだ1人では言えません。確か「あっ村の子ども達の元気な声が聞こえて来るよ。ぼくも行ってみたいな。」という内容のセリフだったと思います。最初に「あっ」という言葉を入れることで、次の言葉が出しやすいと考えた先生方の工夫が実ったのでしょう。大きな声で「あっ」と言えるようになりました。でもその次の言葉「村の」というセリフが急に小さくて消え入りそうになります。そこで先生の応援が入り、2人でゆっくり「村の子ども達の元気な声が聞こえて来るよ。」と続けました。周りの子ども達も大応援です。口をパクパクさせてセリフの応援です。先生とK君は、それに応えて大声を出し始めました。先生が演じている姿は上から目線ではなく、共に心を込めて語ったので、K君にはプレッシャーもかからず、どんどんお腹から声が出せるようになりました。時々練習する声が園長室まで聞こえる日があり、子ども達の自信に満ちた元気な声が嬉しいなと思う日が続きました。しばらく年長の練習を見ることなく本番を迎えました。私は幕間の司会をしながら年長の劇をドキドキして待ちました。劇中踊りの後「あっ」と言う声が聞こえ、K君を先頭に数人の子ども達が出て来ました。K君は堂々と背筋を伸ばし、1人でセリフを言い切りました。舞台横で先生が泣いています。私も涙です。こうして子どもは伸びて行くのです。