『思い出さがし』 114・表現会で学ぶもの③
いよいよ役決めの発表の日。先生もドキドキしますが、子ども達もワクワクドキドキです。絵本を見たり、物語を聞いたり、先生達が演じるのを見たりしているので、自分のやりたい役を決めている子が大半の様で、第1希望から第3希望まで用意されています。できるだけ第1希望を叶えてあげたいと先生達は苦労をしているのですが、その子の発達や成長に合わせたり、この子にこんな力をつけたいと思うと、本人の希望通りというわけにはいきません。今の子ども達は自己主張もしっかりしていて、演じることの大好きな子が多いのですが、30年前の子ども達は控えめでやりたい役があっても、どうしてもやりたいと主張して譲らないということはありませんでした。そのため、先生方はこの役はこの子にやってほしいと思って説得することもあったようです。ある日、当時年長組を担任していた若い先生が「園長先生、今どうしてもこのチャンスを生かして大きな声でこのセリフを言わせたい子がいるのですが、本人が1人では言いたくないと泣くのです。無視したらその子は傷つくでしょうか。」と相談に来ました。「どうしても言わせたい理由は?」と聞くと「いつも友人の言いなりになっている子に自信を持たせたいのです。自分は変われるというきっかけを小学校前に体験させたいのです。」先生の熱のこもった言葉が胸を打ちました。「じゃあ他の先生にも協力して頂いてやってみましょう。最初はやらせではなく、先生と一緒に頑張ることから初めて下さいね。」こうして役作りがスタートしました。