『思い出さがし』 109・お正月いろいろ③
昭和21年のお正月は日本で迎えました。父のふるさと、兵庫県の山奥でした。「かすみ」という駅でバスに乗り換えて2時間。終着駅で降りてから子どもの足で1時間半はかかった山奥でした。でも人々の言葉は柔かく温かでした。「よく帰りんさったなあ。」「ごくろうしんさったのう。」「ゆっくり休まれなったらえいよ。」と優しい言葉が続きました。嬉しかったです。緑の多い山々が価値観がひっくり返ってしまった日本に希望をつないでくれました。日本海側なので大雪でした。冬は分校ができて、村の子たちは20名近くその分校で4月を待つのです。父の弟で他家へムコ入りした叔父さんの家で迎えたお正月も面白いものでした。親族の長老の家に子ども達が10名以上集まって「おめでとう。」と言い交わし新年が始まります。そして最初の儀式が、口の狭いアメ玉の入っていたガラスビンの中に、たくさん詰まっている小銭を掴み、その分がお年玉として全額もらえるのです。大きな手でグイとつかんだ大量の小銭も小さな口からは出ることができません。握りこぶしが大きいと出ることができず、小さな子ほど有利なのです。欲深い子は途中であきらめるしかありません。長老の知恵は幼い子に温かいお正月を用意してくれ、みんな大笑いをしながらお雑煮を食べるお正月でした。