『思い出さがし』 104・良い子ってどんな子?②
私の腕の中で思い切り泣いた翌日から、M君はやんちゃ坊主達と遊ぶようになり、絵本や地図ばかり見ている時間が減りました。優しいのでいつも女の子に呼ばれていた折り紙名人も、汗をかいてドッチボールに参加するようになりました。でも時々寂しい笑顔をするので気になります。彼の口からきっと何かを話してくれるだろうと待ちました。やがて秋も深まり木枯らしが吹く頃に道徳教育のためのアンケートが全校で実施されました。その中に、自分の好きなところ、嫌いなところという項目があり、記名でのアンケートだったのでとても興味深く読みました。1年生では自分のことを深く考える年令ではないので、親があんたのこんなところが好きだと言ってくれたり、友人に褒められたりすることを書く子が多く、幼稚園や保育園で先生から褒めれたことを答えとする子も多くいました。一枚ずつ読み進めると思わず吹き出す答えもありました。「うんこが早いこと」「お母さんを笑わすこと」「逃げ足の速いこと」「弟の残したご飯をさっと食べること」「妹をおんぶしておつかいに行けること」等々小さな自慢話が続きます。一人だけ「ありません」という回答がありました。それがM君だったのです。嫌いなところにははみ出すほど書かれていたので目立ちました。自分を好きになれない1年生がいるんだと思うと、何かをきっかけに話したいと思っていたので、私の幼年期の頃を語りかけてみました。「先生もね、自分のことあんまり好きじゃなかったの。」語り出すと彼はまっすぐ私を見つめました。