『思い出さがし』 70・もういくつねると②
お母さんが仕事を持つと、その家庭のリズムは大きく変わります。まず時間的なゆとりがなくなるので、会話は必要最低限の数になります。そして「早く」という言葉が終日続きます。今まで主婦として家の中をできるだけ美しくしようと思っていた母親にとっては、食事と洗濯で手一杯になり見える所だけの掃除で済ますことが多くなりました。子どもにとって一番の苦痛は、今までの様に色んな話を聞いてくれない忙しい母の姿を見ることだった様です。笑顔のなくなった母のことをいつも「ママは笑わんくなった。」悲しそうにつぶやいていました。やがて父親は事故の後遺症のため実家へ帰ることになったのです。母は生活保護を求めて頼みましたが、父親の実家が資産家だということで願いは叶わず、女手一つで働き続けることになりました。そんな母に手を差し伸べたのは新興宗教でした。その関係者の方の尽力で、フルタイムで働く所ができて、お正月一日休んだだけで冬休みは一日もありません。その間彼は我が家でお正月を過ごし、新学期始業式に自分の家に帰りました。お正月のおせちや煮物をもう処分しようとしたところ、息子の友人の彼は「おばちゃん、これぼくのお母さんに食べさせてやりたいんやけど持って帰っていい?」ともじもじして言い出したのです。「煮直してあるから大丈夫だけど、じゃ箱に詰め直すから持っていってね。」と言うとパッと顔が輝いて、体調が悪いお母さんのもとへ走って行きました。