『思い出さがし』 66・雷のこわさ
冬の雷はとてもコワイという思い出があります。まだ金沢市内に市電が通っていた頃、真っ黒な空が鋭い光でさえぎられる様にふるえた日のことです。イナビカリと同時にドンとカミナリが落ちたのです。市電の電線の上の様に見えました。丁度電車が止まって出口から傘をさして降りようとした中年の男性が、10m近くも投げ出されるのが私の部屋から見えました。電車の中から運転手さんがゴム手袋をはめて男性に近づきました。長靴の先から煙の様なものが見えました。激しい雨に叩かれていた男の人がフラフラと立ち上がり、運転手さんにもたれかかりました。ゴム手袋でしっかり抱えていた運転手さんが少しよろめいていると、2人の間に水けむりの様なものが立ち上って消えて行きました。時間にしたら2・3分のことでしょうが、私には1時間も過ぎたのではと思えました。翌日の新聞には、男の人が長靴を履いていたこと、運転手さんがゴム手袋を持っていたことが幸いして、生命が守られたと結んでいました。水しぶきと水けむり、そして投げ出された人間の身体と2人のまとわりつく様な影法師が、いつまでも私のまぶたに焼きついて離れませんでした。やがて大雨があられに変わり、次の日はチラチラ白雪が降りました。冬のカミナリの恐怖は、まだ小学生だった私にとっては忘れることのできない体験として残り、冬のカミナリは今も苦手です。あの時の中年の男性は父の知人でもあり、煙を出した長靴がいつもその方の玄関にお守りとして飾ってあったと言うことです。 2012年12月03日 10:05