『思い出さがし』 58・運動会について③
会場がどよめきました。バトンをもらった4年生はトップで走って行きましたが、倒れたつとむ君は起き上がって来ませんでした。本部から先生達が駆けつけて来ました。私も真っ先につとむ君に走り寄ったのですが、抱き上げてもぐったりしています。でも、顔色はいつもと変わりません。「つとむ君、しっかりして!わかる?先生の顔が見える?」と揺さぶると薄ら目を開けて頷きます。教頭先生がコップに水を入れて持って来て下さいました。「さあ、お水を飲んで!元気出して!」というとコップにかぶりつく様にして一口水を飲むと「ありがとう。」と言ったのです。そして、私の膝の上にしっかり座ってコップの水を飲み干しました。その間に4年生の選手のバトンは5年生に渡していました。私はつとむ君を膝に抱えながら応援し、3組のみどりタスキが2位でゴールインするのを確かめました。ほとんど同時の様に見えた人達もいたらしく、残念でしたが2位でした。かけ足でグラウンドを一周して、みんなの大拍手の中を退場する選手の一人つとむ君の手を引いて手を振りました。何だか涙が込み上がってきて、教頭先生の持って来て下さったお水を「ありがとう。」と言って飲んでくれたつとむ君の人間としての大切な資質を垣間見ることのできた運動会という行事に感謝しました。まさかのことが起こりやすい行事だからこそ本当の人間の姿が浮かび上がるのでしょう。ゆたか君とつとむ君は強い絆で結ばれた兄弟の様に長い人生の友人となっていったのです。