『思い出さがし』 41・父の日を前にして
父の日のプレゼント作りが小学校低学年で盛んな頃がありました。年に一度も学校を訪ねたことも参観に来たこともないお父さんの多い時代に、母子家庭の子が一人いた年がありました。他のクラスには誰もいなかったので、あまり問題にならなかったのですが、私のクラスの子はとても明るくて、どんなことにも積極的で、自分の非はあっさりと認める、とても好感のもてる2年生でした。でも、学校内ではやはり父のいない母子家庭の子への配慮が必要だから、プレゼント作りはしない方がいいのではという意見が多かったのです。子どもに直接聞くのは失礼だという声もあり、話し合いはなかなか進みませんでした。でも私は子どもの声を聞くことは大切だと思いました。それには、聞き易い子とそうでない子、それを聞き出すだけの信頼関係のあるなしが大きく影響するのではと思いながら、次回の話し合いまで考えることで話し合いは終わりました。父親のいない子という特別な目でその子を見たことがなかったので、私はストレートに聞いてみました。「信太君のお父さんのことについて聞いてもいいか?」と言うと「うん、いいよ。お父さんはねぼくの3才の時、工場の機械に巻き込まれて死んだの。」と淡々と話してくれたのです。「そう、ごめんね。悲しいこと聞いちゃって。」と言うと「全然平気だよ。ボク小さかったからお父さんの肩車から見た公園のことしか覚えていないんだ。でもね、写真があるから大丈夫。おじいちゃんも隣の家にいるし、大きくなったらボクがお父さんになるんだもの。ボクお父さんのタマゴ!」そう言って明るく笑ったのです。2回目の話し合いでそのことを話すと「そうだ、あるがままをしっかり受け止める子を応援しよう。」ということになりました。今はどうでしょうか。