『思い出さがし』 39・ぼくのお母さんをとりかえて
どんなに辛い関係の中でも、子どもは親をかばうものです。かつて、どんなに熱があっても幼稚園へ行きたいと泣いていた女の子がいました。おたふく風邪になった時、幼稚園に電話をかけて来て「私を連れに来てください。助けて!」と言った子でさえ「そんなにイヤなら園長先生の家の子になるか。きょうから一緒に寝ようね。」と言うと少し考えてから「やっぱり止めるわ。夜ママひとりになるとかわいそうやし。」と言ってママの所へ帰って行きました。でも一方で、静かでお利口で誰からもいい子だと言われていたS君は、時々ぶつぶつ独り言を言って暗い表情を見せる年長さんでした。礼儀正しいママと物わかりの良いパパの間に生まれた男の子で、上に大きな姉のいるハンサムな子でした。園庭でもブランコの順番をしっかり守って30数えると、しっかり交代する素直さがあり、決しておふざけをしない子でした。秋も深まったある寒い日、少しトイレを失敗してしまいました。もじもじと園長室の前を通りかかりました。旧の職員室は園長室の前を通った奥にあったので気になって声をかけたところ、ワッと泣き出しトイレの失敗を話してくれました。「大丈夫!先生なんか2年生になっても失敗したよ。今日は寒いもの。我慢しとったんやね。」とパンツを替えてやると泣きじゃくりながら「先生、ぼくのお母さんを取り替えて。」と言ったのです。「え?」「だって失敗したから叩かれるもん。もういやや。毎日ビクビクしとるのイヤや!」「S君えらい!ちゃんとイヤと言えたじゃない。お母さんに言ってみよう!!」こんなエネルギーが親を育てるのですね。その後お母さんが変わりました。