『思い出さがし』 33・桜の花に思う
もう30年も前の4月、桜の花びらが吹雪の様に舞い散る頃、年少組はあすなろ公園に花見に出かけました。しっかり手をつないで、わずかな道を歩くのも大変でした。2人の先生が列の前後について、数10m歩くのに5分程かかってすぐ隣の公園で桜の花びらが散るのを追いかけていました。キャーキャー笑いながら両手を広げて受け止めていたのです。中には地面に落ちた花びらをじっと見つめている子もいましたが、ほとんどの子は踊る様に花びらを追いかけていました。地面が淡いピンク色に染まっていくのをじっと眺めていた男の子が、そっと大事そうに両手で花びらをすくいポケットに入れていました。ポケットがいっぱいになると、ポンポンと上から叩いて満足そうに大息をつき、みんなと同じ様に追いかけっこをして楽しんでいました。ほんの短い時間でしたが「お部屋に帰るよ」という先生の声を聞いて、みんな「ハーイ」と集まり、来た時より上手に手をつないで園へ帰って来ました。玄関で「おかえりなさい」と迎える私に「ただいま」と元気な返事をして、いい顔で教室へ帰って行く子ども達の一番後ろから、さっきポケットいっぱいに花びらを入れた子が私に「先生、おめめつむって。」と言って、そっと一枚の花びらをプレゼントしてくれました。幸せでした。その次の朝、送って来られた彼のお母さんが「先生、昨日私は幸せでした。私達の結婚記念日を憶えていた息子が、主人と私に桜の花びらの花吹雪をかけてくれたのです。おめでとうと言って。」そのお母さんの美しい涙が、桜の花びらと共に思い出されます。