『思い出さがし』 26・表現会を終えて
表現会を終えると、子ども達はその子なりの輝きを見せてくれます。たったひとつのセリフでも大きな声でしっかり言えると自信がつくのでしょう。そして先生からも親からもほめられると自分の力を再認識する様です。かつて、なかなかひと言が言えなくて毎日苦労していた子が、練習相手だった子が休んで、ひとりで言わなくては誰も助けてくれない場面に追い込まれ、意を決して体全体を使って大声を出した時がありました。仲間の先生もびっくり。ステージの空気が変わり、みんなボリュームを上げて劇をクライマックスにもっていったことがあります。その子自身もみんなが張り切り出して嬉しかったのでしょう。恥ずかしさも心細さも消えて先生達から120点ももらったのです。表現会近くになって風邪で体調がなかなか戻らない相手の子をリードして、当日を堂々と乗り切った子を今も忘れることができません。どちらかと言うと、誰かの後ろから弱々しくついて行く姿ばかりを見ていたので、その成長ぶりは両親にとっても嬉しいことだったのでしょう。年中組の男の子だったと思いますが「あと1年、この子の成長を共に喜んで下さる先生や友だちと仲良くさせて下さい。」と何度も握手されたことを思い出します。人間は変身願望を持った動物です。劇中では自分でない自分を演ずることで、眠っている能力を見出すことができるものです。「あっ王さまははだかだ。」というセリフを大声で言えたことで、劇全体がひきしまったものになったので、皆の思い出に残り、その子の自信は少年時代以降を支え続けたのです。