『思い出さがし』 231・夏の海③
楽しい海辺での遊びは夕方の太陽を見送ることで終わりました。ヒリヒリと日焼けした身体は少し触られただけでも悲鳴をあげるほど痛みました。今の様にマイカーで帰る時代ではなかったので、満員電車に詰め込まれてイヤな気分で帰った日を思い出します。でも太陽と砂との出会いは嬉しいもので、疲れた身体にとって、電車の揺れに合わせて眠ることはわずかな時間でしたが、夏の思い出として大切にしたいと思いました。でも悲しいこともありました。遠浅の海でも所々砂がえぐられて穴の様にそこだけ深くなっている所がありました。見張り台の上でアルバイトの大学生が何やら大声で叫び、メガフォンで呼びかける姿を見て、友人達と波に揺られていた私達は急いで岸の方へ歩いて行きました。波打ち際で消防の人達が担架を持ち運んで来ていました。そのすぐ横で小学生高学年の子らしい男の子が人工呼吸をされているのが人だかりの足の間から見えました。「水は吐いたよ。」「もう少しや、頑張れ。」という声が聞こえました。祈る様にして手を合わせ座り込んでいる母親らしい人の姿もチラリと見えました。子どもの名前でしょうか「よういち!よういち!」と必死な声が聞こえました。夕日がすっかり落ちて水平線から赤い色が消えた頃、泣き叫ぶ母親の声が海を渡っていきました。救急車のサイレンが聞こえた頃には家族の悲しみの声が帰る私達の心を重くしていました。
2016年08月29日 23:58