『思い出さがし』 217・小さな命①
私は大学時代、我が家に下宿していた若い夫婦のことをよく思い出します。印象的だったのは若夫婦と双子の赤ちゃんが生まれた日のことです。小さな小さな赤ちゃんが顔をならべて眠っていました。1人は真っ赤な顔で、もう1人は白っぽい顔でした。余りの小さい姿に触れる勇気がありませんでした。それは、本当に壊れそうだったからです。でも、ちゃんと呼吸をしていました。赤い方が大きな声で泣くとつられた様に白い方が遠慮した様に泣くのです。若い母によると650gと500gだったということでした。あくびをしたり、口元も動かして目を開けようとしている赤い方の子は、とても動き、どこでも見たことのある赤ちゃんでした。でも、白い方は何だかどんどん白くなるようでドキドキして来ました。私の母が助産婦だったので我が家での出産となったのでしょうか私は心配で母を呼びに下へ降りて行きました。そして、白い方の子のことを告げると「明日、小児科のお医者さんに診て頂くことになっとるんや。」と言って「助けたいけど。」と涙ぐんだのです。60数年前の話ですから医療の面でも難しかったのかも知れません。私は夕食もとらず彼女(2人共女の子)を見つめ続けました。夜の12時の時計の時報が始まった時、白い方の彼女は突然しゃっくりをし始めました。私はしゃっくりに見えたので初めて両手で抱きあげて小さな背中を撫でました。驚くほどの心臓の速い動きが伝わって来ました。「母さん!苦しそうや!」と私は階下の母を呼びました。
2016年05月01日 23:57