『思い出さがし』 207・成長する子ども②
自分の担任した少年少女達が、青年になる過程で悩んだり苦しんだりする姿を見るのは辛いものです。父親が単身赴任となり、家の中の雰囲気がガラリと変わったT君。T君にとっては家族とは何だろうと考えるチャンスではありました。毎日、給食の後、さり気なく近づいて来て、ポツリと話す言葉が心に残りました。台風が通り過ぎた翌日は、「先生、夕べ、ガラス窓がブルブル震えて今にも破れそうだったよ。」ささやく様に言って来ました。「先生も怖くて眠れなかった。屋根が飛んで行くかと思ったわ。」と答えると、そっと私のヒザの上に優しく腰掛けて「お父さんがいる時はボク何も心配せんと眠れとったのにボクも眠れんかったんや。お父さんがいるというだけで家族が安心しておれるんやなぁと思って、お父さんて大切な人なんやって思った。」「お母さんにあなたの思ったことを伝えてみたら良いと思うよ。そして家族って何だろうと考えてみてほしいな。」私の答えを聞くと深く頷いて友達の群れの中に入って行きました。それから1週間程して給食後、私のすぐ隣りに身を寄せて「先生、お母さんと話して10時頃まで沢山お喋りしたよ。」「そう、よかったね。どんな話をしたの?」「あのね、お母さんがね、お父さんがいなくても、あなたが台風の心配をしてくれたことが嬉しくて電話をしたんだって。そしたら、お父さんが『成長したな。今度帰ったら抱きしめてやりたい』と言ってたよって話してくれた。」胸がキューンとなり肩を抱きしめました。
2016年02月19日 23:58