『思い出さがし』 178・親と子③
父を結核で亡くした子どもが多くて、残された母と子は静かに母の郷里へ帰る人が多かった時代でしたが、その母と子は工事現場の掃除をしながら子育てを続けて行くことになった様です。早くに父を亡くした男の子と女の子を見て来ましたが男の子は急に少年らしくなり、女の子は甘えん坊になることが多かった様に思います。男の子は父の代わりをして母を助けたいと思うからでしょうか嵐の吹く夜は母の帰りを待ちながら雨戸をしっかり閉めて、家のまわりを点検している様に見えました。隣の魚屋さんのおばちゃんが心配そうに男の子に声をかけ、「えらいなあ、すっかりお兄ちゃんだね。後でおばちゃんも見に行くからね。」と元気付けていました。お母さんが疲れて帰って来る頃には、お茶を作って待っているらしく、番茶の入った長細い袋が台所の棚の上に置かれているのが見えました。とても来年から小学校へ入るとは思えないしっかり者でした。お母さんを助けて家を守るようになってから、男の子の顔付きまでがキリッとして近所の人達へ挨拶も見事で、その健気さにまわりの大人達も心して彼を守る様になったのです。私の母もその1人で珍しい食べ物が手に入ると、いつも運んで行って彼を励ましていました。私も彼のことが気になり名前をようやく知りました。
2015年07月17日 23:57