『思い出さがし』 176・親と子①
80年近く生きていると沢山の親と子に出会います。そして自分も親になり子どもを通して人生を生きることになります。子どもの時に出会った親と子の姿と親になってから出会った親と子の印象は大きく変わっています。子どもとして見た沢山の親子はどうしても子の側に立って見てしまい親となって出会った沢山の親子は、やはり親の立場で見てしまいます。5年生の時、近所に住んでいた親子は印象的な親子でした。父親は終日家にいて夕方によく散歩に出かける時、4才位の男の子の手を引いて静かに出かけるのです。男の子は嬉しそうに父親の大きな手にぶら下がる様にして歩き始めます。30分程すると父と母と息子の3人で少し疲れた様な息子を中心にして帰って来ていました。まだ市電が街の中を走っていた頃だったので、電車が通り過ぎたあと、電車の運転手さんに手を振る男の子の顔は笑顔でした。母親が玄関の戸を開けてバケツに水を入れて素早く玄関に置きます。父親が「ありがとう。」と言ってバケツの水に腰につけていたタオルを入れ、固く絞って手や顔を洗った息子に固く絞ったタオルを渡しています。息子は黙って受け取り、父親と同じことをすると母親がタオルを洗い直して自分も手や顔、そして足を拭いてそのバケツの水を道路にまくのです。近所の人達は少々迷惑そうでした。
2015年07月05日 23:56