『思い出さがし』 171・生と死④
「ワー、ぎょうさん入っとるなー。」とおばちゃんは嬉しそうに言って水の中に足を入れました。小さな池の魚たちは10匹ほどのかたまりになって池の中をぐるぐる回っていました。(今晩のおかずになる!)いつも腹ペコの私はとても嬉しくて、どうしたら全部の魚を持って帰れるかと考えをめぐらしていました。英ちゃんのお母さんは川から足を上げて石の山に座ってじっと魚たちを見ていました。「おばちゃん、首にかけとる手ぬぐい貸して!」と叫ぶといつもと違う厳しい顔をしたおばちゃんが低い声で言いました。「ここの魚たちを川へ戻してやろう。」「だって食べるものがないんよ。川の魚を取って食べるしかないやん。」と私が泣き声になると、「ごめんな。みんな、もう缶詰も乾パンも食べてしまったし、ひもじいなー。けど、ごめん。英ちゃんがこの池を作ったんわ。きっと淋しくて友達が欲しかったんや。せっちゃんは友達やけど、英ちゃんは魚さんとも友達になりたかったんやと思うねん。友達を食べるのはよそう。おばちゃん、あの橋の下に何があるか探して来るけん。待っててな。」そう言っておばちゃんは橋の下の草むらの方へ降りて行きました。私は小さな池の中の元気な魚を見ながら少し石をずらしてやりました。水の流れが変わったのか、魚が数匹池の外へ出て行きました。小石がごろごろころがっている中を流れにのって少しずつ動く魚を見て「がんばれ!生きるんだよ!」と思わず叫んでいました。
2015年05月29日 23:56