『思い出さがし』 167・出会い⑤
「だいすき」という言葉が私の心にジ~ンと響きました。四つ葉のクローバーを絵本の間に1枚1枚挟んで押し葉にするという敏ちゃんに感心していると「お母さんが良くして下さったの。」ということでした。私は黙っていました。玄関脇の廊下でおばあちゃんと2人で抱き合っていた姿を思い出すと何とも言えなかったのです。「せっちゃん、いつも私のこと大切に思ってくれてありがとう。わたしね、せっちゃんとお友達になる前はとっても泣き虫で毎日泣き虫でおばあちゃんを心配させていたの。わたし3つの時、おかあさんが病気で亡くなってね、おばあちゃんの家へお父さんと一緒に来たの。おばあちゃんはとっても優しくてわたしを可愛がってくれるんで嬉しいけどお母さんがいないのはどうして?どうして?っていつも思っているの。長いこと病院に入っていたお母さんが、もうどこにもいないなんてどうしても分からないの。おばあちゃんは『お母さんはお星様になって敏ちゃんのこと守って下さっている』といつも言われるのでわたし、いつも空を見ているの。そしてお母さんとお話しているの。でも、せっちゃんと桜の木の下で会った日から、お話を聞いてくれる人ができてお母さんにも、その話を沢山しているの。お母さんが毎日歌って下さった、ゆりかごのうたをせっちゃんが嬉しそうに聞いてくれるのが一番好き。ひとりぼっちじゃないもの。」ゆっくり静かに話しかける敏ちゃんの淋しげな顔がピンク色になるのが可愛いなと思って、私もお姉さんになった気持ちで聞きました。別れの日、北朝鮮に向かう見送り客の中の敏ちゃんの淋しい笑顔が忘れられません。あの日が2人にとって最後の日になったことも忘れません。
2015年05月02日 23:35