『思い出さがし』 165・出会い③
理由のはっきりしない発熱に驚いた母は、その夜、冷たい水で何度も頭にタオルを置いてくれました。そのタオルの冷たさだけは覚えています。次の日の朝、下着を変えている私の額に手を当てて「あら、熱ないね。何の熱やったんやろ。」と梅干の入ったあったかいお粥を持って来てくれました。ふと、そう言えば、あの日敏ちゃんはお粥を食べていたのかも知れないと思い会いたくなりました。するするとお粥を飲み込んで梅干の種を口に含んで敏ちゃんの家へ急ぎました。敏ちゃんは玄関の脇にある廊下で椅子に腰かけて歌を歌っていたのです。私は立ち止まってその歌に耳を澄ましました。「ゆりかごのうたをカナリヤが歌うよ。ねんねこ ねんねこ ねんねこよ」とてもカワイイ澄んだ歌声でしたが悲しそうにも聞こえました。何だか泣きそうになり、黙って座っていました。もう一度繰り返して歌う敏ちゃんを見つめてビックリしました。敏ちゃん、ほほに光るものが見えたのです。涙です。思わず「敏ちゃん。」と叫ぼうとした時、おばあちゃんが「敏ちゃん、泣いてええんやよ。『お母さ~ん』って泣いていいんやよ。」と言って後ろから敏ちゃんを抱きしめられたのです。同じ思いでした。「敏ちゃんと手をつなぎたい!!」でも私はやめました。おばあちゃんと敏ちゃんを2人にしてあげたいと幼い心で思った日を忘れません。
2015年04月17日 23:34