『思い出さがし』 236・人のうわさ②
友人のYさんは実に話のうまい人でした。ユーモアを入れてとても印象的に話すので「私のかあさんね、自分のことをバレリーナなんだと錯覚してるの。この間の日曜日のお昼頃ね、バレエの白鳥の湖の舞台をテレビで見ていたらね、急にテレビの前で踊り出してさ、食卓の角につかまって足をドサッドサッと上げたり下ろしたりしてね、つま先で立ったつもりでイスの周りをグルグル回ってさ、画面の中にプリンスが現れるて目を閉じて上体を反らしてステップを踏む真似をして、食器棚にぶつかって顔をしかめながらテレビ画面を真似してたんや。お兄ちゃんは見ておれんと言うし、弟は止めてくれ家壊れると叫んどったんや。」と一気に話してくれたが「あーあ、母さんのバレリーナ姿は見たくないなー。」すっかりお疲れモード。私は「でも楽しいお母さんや。子どもの粗探しばっかりして叱ってばかりいる母親より格好いいと思うよ。」と言うと「楽しいけど困ったこともあるんや。家は古くて台風が来ると目張りをしたり、ベニヤ板を打ち付けたりで大変なんや。」とため息をついていました。この楽しい母さんのことが色々な形でこの家族を追いつめることになったのが噂でした。子どもに暴力をふるう母親という辛い噂が流れ始めたのです。ストップザ噂に立ち向かう家族の姿の応援は半年間もかかりました。
2016年10月03日 23:58