『思い出さがし』 237・人のうわさ③
いつも楽しい笑い声の絶えないYさん宅の雨戸が晴れた日でも閉じられる日がある時は突然やってきて、静かになりました。最初に気付いたのは隣の80才ぐらいの耳の遠いおばあさんでした。「せっちゃん、Yさんの家、誰か病気で入院したんかね?」と心配そうに声をかけて下さいました。私は言われて気が付き「そう言えばそうやね。元気なバレリーナのおばちゃんの声が聞こえんね。」と話していると「病気でなけりゃいいけど淋しいね。」とおばあさん。近くの畑で細々とおじいちゃんと野菜やお花を作っている老夫婦にとってはいつも明るい元気なお家の雨戸が閉じられて静かな様子が心配だったのでしょう。「お節介かも知らんけど回覧板でも持ってのぞいて見るわ。」と2、3日後Yさんの家を訪ねて行きました。Yさんの元気な声を期待して行った所、いつもユーモア一杯で母さんの白鳥の湖のバレリーナの話をしてくれたYさんが膝小僧を抱えて泣いていたそうです。Yさんは私より学年が3つ上で中学2年生でした。何があったのか聞き辛くて聞けなくて帰って来たおばあちゃんは「せっちゃん、それとなく聞いてやっていや、うち、やっぱり心配や。みんなおったけど返事にも元気がないし、何があったんやろね。」と何度も確かめてほしいと言って帰って行ったのです。ずるずると日を延ばしていると、ある日突然黒づくめの男の人達が4人Yさんの家にドカドカと入り込んで行きました。「長男はどこ行った!」大声が聞こえました。
2016年11月08日 23:55