『思い出さがし』 238・人のうわさ④
私の母は気丈な人でしたから「私行って来る!」と言ってYさんの家へ入って行きました。しばらくすると「警察の人でもないのに失礼でしょう。」という母のよく通る声が響きました。道行く人が1人2人と立ち止まりかけると黒い服の人達が「立ち止まるな。」と追い払っているのが見えました。小心者の私は、少し震えながら自分の家の玄関に腰をおろして様子を見ていました。「人のうわさだけで大の男が4人も来るなんて犯罪です。」と母の声が聞こえました。どうやらそんな勢いに負けたのか、4人の黒い集団は何も言わず一礼しYさんの家から出て行きました。母の解説によると、近くの町の真ん中にスーパーがオープンした所、中学生達が大量に買い物に来て、そのうちの何人かが万引きをしたとのこと。お調子者のYさんが目立ったのでしょうか。あの子はリーダーとして万引きをする力のある子だとうわさされていたらしいのです。友だちと楽しく色々さわってみたりする所を見られたのでしょう。万引き犯のターゲットとなり、閉店後万引きを取り締まっていた黒い人達の目に止まったらしいのです。明るい元気な子が友だちと文房具屋さんに入ることがなくなり、それが次のうわさを生むことになるのです。私にできることは、Yさんと本屋めぐりをしたり、文具を選んだりするところをみんなに見てもらうことでした。うわさが消えるのは8ヵ月後のことでした。
2016年11月08日 23:57