『思い出さがし』 105・良い子ってどんな子?③
M君の美しい瞳が吸いつく様に私を見つめています。どんなことも聞き逃すまいとするパワーを感じました。「どうして自分を好きになれなかったのか、自分でもわからなかったんだけど、お姉ちゃんだから我慢するのよ。とか、そんなこと当たり前でしょう。そんなことは恥ずかしいことなのよ。大人の言うとおりにすると大きくなったら幸せになれるんだよ。我が家は昔から立派な人が続いているのだからそれを考えておくんだよ。1年生だからって毎日のように言われたの。でも考えてみたらきっとどの子も言われていたのでしょうね。」と私はいつもよりゆっくり語りかけました。M君は静かに問い返しました。終わりの会も済み、6年生の掃除も終わった時間だったので、1階は静かな場所でした。「先生のお母さんは大声で怒鳴った?叩いた?」「うん、怒鳴られた。叩かれて鼻血が出たこともあったなぁ。」「その時泣いた?」「そう言われると泣かんかった。黙って我慢したかも。」「ぼく泣いた。そしたら顔つねられた。太ももをギュッとされたこともある。」話しながら泣き声になります。震えている肩を抱くと全身を任せてくれました。その時彼は言ったのです。「お母さんに抱っこされたことがないんです。憶えてないんです!」思いがけない展開でした。愛する人から抱っこされた記憶がないことが、あの寂しい笑顔の原因だったのです。