『思い出さがし』 100・盲腸の子を思う
盲腸炎の痛みは、急激な痛みを伴うものと、鈍痛がいつまでも続くものがあると聞き、激しい痛みはすぐに発見できるが、鈍い痛みは放っておくと腹膜炎をおこして助からない時もあると言われ、我慢した娘に詫びました。数年後、自分の担任したことのある3年生の男の子が腹膜炎で亡くなったことを知りお墓参りに行きました。大雨の降る中、墓石に降る雨は音をたてて水しぶきを上げ、男の子の悲しみの涙の様に思えました。毎日墓参りを欠かさないご両親と再会した時、病院で、単なる腹痛として胃腸薬を飲まされ、3日後痙攣を起こして、やっと事の重大さに気づいたベテランの医師によって開腹手術が行われましたが、その頃の医療の限界だったのでしょうか、手の施しようがなかったと号泣されました。雨はどこまでも強さを増し、墓地の中は足首まで水が上がって来ました。最後に立ち会って下さったベテランの医師が涙を流して詫びて下さり、償いを申し出された時「この子の運命だったのです。」と言うのがやっとだったと泣かれ「あの子のことをもっと関心を持って見守る親の力不足も
原因の一つでした。」と雨で濡れた墓石を抱きしめておられたのを忘れません。私も同じ様な親でした。辛抱強くて優しい子だった彼をよく知っていただけに、激しい雨の中で泣くことしかできませんでした。