『思い出さがし』 94・遠足の思い出⑤
楽しくて時間を忘れて遊んでいた川が荒れ狂うのを見て、みんなは寄り添って不安の涙を流しました。
リーダーのりょう君は、そんな皆を川から遠ざけながら安全な場所を探していました。
遠くでカミナリの音がしました。雨も降ってきました。「つとむ、ありがとう。どうしてわかったん?」とりょうが聞くと、弟のつとむ君は泣きじゃくりながら「雲の流れと山の方を見てわかった。」と言ってくれました。お天気博士の天候診断は確かでした。自分の頭の上の雲さえ見ずに川の流れを楽しんでいたやんちゃ坊主達は、つとむ君に感謝しながらも、うらめしそうに山の方を見つめていました。
リーダーは「みんな、あの小屋まで頑張るぞ。濡れた体をしっかり拭いて、新しい上衣に着替えろ!」と号令をかけました。私の弟は小さいくせに根性のある子だったので「オーッ!」とかけ声をかけて先頭に立って山小屋を目指しました。いのししのように駆け登っていく弟を見て、みんなの中に笑いが起こりました。
やがてカミナリは山小屋の上をゴロゴロ音を立てて通り過ぎて行きました。本当につとむ君は命の恩人となったのです。山の気候の変化を鋭く見極めてくれたつとむ君は、皆の英雄となり「泣き虫泣き虫」とバカにされていた頃の彼はひと回り大きくなり、益々勉強家になりました。そして山や川で遊ぶ時のリーダーはつとむ君となったのです。