『思い出さがし』 36・事実を受け止める②
美しい目をキラキラさせて、長い髪の毛をポニーテールにした女の子チカちゃんは、私の担任の子になっていました。1年間で大きなドラマがあったことを知りました。お父さんは1年前初めて上の子の授業参観で道徳の授業を見て、子ども達の深い考えに感銘を受けたと話して下さいました。道徳ってどんな授業だろうと思って、母親に代わって見に来て下さったということでした。道徳の教科書もない時代で、担任が教材を見つけて、毎回子ども達と話し合うことの多い授業でした。私は弟の友達が原爆病で検査入院となったことをきっかけに、広島で原子爆弾を受けた子ども達のその後の記事やエッセイをいくつか読んでいて、ある女子学生が被爆して右腕がケロイド状態になり、それを隠すために夏でも長袖を着て過ごすのを見た級友たちが、女子全員、真夏でも長い袖の服を着て学校へ来ているという記事を見つけました。私は迷うことなくこの記事を教材として取り上げ話し合いをしました。私が一読すると「みんな優しい人ばっかりやね。」という声があがり、みんな感心した様です。その中に一人「男の子はどうしとったんやとね。」とつぶやく子がいました。「男は暑いの我慢できんしや。」と言い出すと、次々「それはおかしい。」「みんな仲間なんに。」「私がもしその女の子やったら苦しい。」「なんで?」「だって自分のためにみんなが我慢していると思ったら辛いやろう。」「ほうやな。」「う~ん。みんな本当に優しいがかな。」全員考え込みました。緊張した静かな時間が流れました。「みんな素晴らしい。本物の優しさって何だろうと考えているのは素敵です。」私も口をはさみました。(続く)