『思い出さがし』 35・事実を受け止める①
小学3年生を担任していた頃、その男の子の妹に幼稚園の年長組になる女の子がいました。とても美しい目をした口元のかわいい子でした。髪の毛が長くていつも首がしっかり隠れていたのを思い出します。肩から胸元にかかる長い髪は、夏になると暑苦しい感じがしましたが、女の子らしくて人気者だった様です。3年生になって最初の授業参観日に妹の姿が見えたので、手を振ると恥ずかしそうに首をかしげて小さく手を振ってくれました。授業が始まると、お母さん達の化粧品の香りが教室にいっぱい流れて、男の子達が窓を開け始めました。外は風が強くて春の嵐の様でした。窓際に立っていた女の子は強い風に吹かれて髪の毛が乱れ、あわてて両手で髪を抑えていました。その時何人かの子ども達は見たのです。女の子の首半分に赤い大きなアザがあるのを。「チカちゃん首どうしたん?」と小声で話しかける子がいたので、私は声を上げた子に質問をしながら授業を進めました。チカちゃんと呼ばれた女の子は黙って教室から廊下に出て行きました。泣いている様でした。その日はお父さんが参観に参加されておられ、真剣に授業を見ておられました。授業は道徳で原爆の後遺症でケロイドが右手全体に広がった女の子の話だったと思います。クラス全員が夏でも長袖の服を着ていたという話しでした。授業で、それは優しさではない、ケロイドをみんなでちゃんと受け止めて差別をしないという考えを深める授業でした。チカちゃんは次の年、長い髪を束ねて首のアザをはっきり見せていました。(続く)