『思い出さがし』 ⑳ガキ大将のかげに
最近の若者、特に男性が優しくなっています。ひところTVのコマーシャルで『わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい』と言って、大きなハムにかぶりつく父と子がアップになったことがありました。人々は「うんうん、その通り!」と礼賛したものです。私も内心そうだなぁと思っていた所、ある青年のつぶやきにハッとしました。「オレ、あのコマーシャル好きでないんです。」とポツンと言って大きな溜息をついたのです。東北大学の文学部を出て西田幾太郎の研究をしていた小柄な男性でした。「何かあったの?」と聞くと「たくましいはいいのですが、わんぱく者を強調しているのがイヤなのです。」と言って暗い表情になり、周りがガキ大将を持ち上げて、最近の男はガキ大将と呼ばれたことのない奴ばかりで困ったものだと盛り上がっている中で暗い空間ができていました。「すみません。先生オレ小さい時から小柄で運動神経もないので、仲間に入るためにいつもガキ大将の使い走りをして自分の居場所にしていたのです。体力がなくて運動能力の低い子は、常にガキ大将やわんぱく者の下で命令を聞いていたのです。」といつもは無口な彼が小声で話して来ました。「光の当たっているわんぱく達のかげには、オレ達の様な小兵が何人もいたことをわかってほしいのです。」と言い切って退席して行きました。あるボランティアの会での出来事でした。そのボランティアの会で何度も会いましたが、いつも明るくて仲間を大切にする人でした。
2012年01月13日 13:50