『思い出さがし』 ⑱虐待に思う
今では数も少なくなりましたが、10年位前までは毎週の様に虐待のことで相談を受けることがありました。特に自分が小さい時母親に差別され、姉の通知表は取りに行ったけど自分の通知表は自分でもらって来たというお母さんは、我が子にも同じようにしてしまいたくなって悩んでいるということや、父に叩かれ足で蹴られた体験が思い出され、ついはさみやおもちゃのバットで叩いてしまうという母親の声が続きました。暴力暴言は世代連鎖をします。暴力をふるわれた者が一番暴力の恐怖とその効果がわかるから、自分の思いを実現するために効果の強い暴力暴言を使うのでしょう。ある母親は不登校の息子が「お前の子に生まれたのが不幸だった。」とわめいてベットに入った夜、縄ひもを持って息子のドアノブをそっと開けようとした時、そのドアに映った自分の縄を持った影を見て、思わずその場に座り込んだと言って、深夜私の所に電話をかけて来ました。「お母さん!えらい!自分の影を見て思い止まるなんて、何とすてきなお母さんなんでしょう。今すぐ行って抱きしめたいぐらいです。」と言ったところ、声を殺して泣き出され「こんな遅くにごめんなさい。本当にごめんなさい。」と頭を下げておられる様でした。この時をきっかけに交流が始まり、孤立していたお母さんはもう一人ではありませんでした。実際に会って手を握り、肩を抱いただけだったのに、彼女は力強く連鎖を断ちました。母親の暴言暴力を乗り越えたのです。周りに誰か一人でもいい、心を抱きしめる人が必要なのです。