『思い出さがし』 ⑯祖父母の思い出
祖父母の存在はだんだん年をとるとやっかいなものになるのでしょうが、20才の学生達の中には直接ふれあうことのなかったため、印象も弱く、亡くなった時だけ病院へ連れて行かれたという者が多くなりました。
でも中には、おじいちゃんが大好きで、病気になったおじいちゃんを毎日見舞ったという話を聞きました。それを聞いた若者達は、思い思いに自分の祖父母のことを語り始めました。幼い時毎日保育園に迎えに来てくれたこと、両親が旅行に出かけた時、同じ布団で眠ったこと、父親の叩かれて助けを求めて走った祖父母の家のこと、夏休みの自由研究を助けてもらい優秀賞になり恥ずかしかったこと、色んな話が出て来ました。みんなが優しい気持ちになった時、ひとりの美しい顔立ちなのにどこか淋しげな女子学生が「もうそんな話やめて。私おるとこ無くなるから。」と言ってうつむきました。まわりの学生達は何か悪いことをした様に、自分の席に着いて静かになりました。やがて、一人の女の学生が「ごめん。私たちの話ってそんなにイヤな話やった?」と小さくつぶやくと、美しい学生はキッと顔をあげて「いい話やから傷つくこともあるんや。私にはみんなの様な思い出がひとつもないもん。あるのは憎み合う祖父母と両親の怒声しか思い出せない。」と言って涙ぐみました。憎しみの連鎖を断ち切る努力をしたいと相談に来たその学生に、答えを用意するはめになったのを機会に、沢山の人を語り合いたい思いです。