『思い出さがし』 ⑮子どもの涙
私が産休明けの初日、久しぶりで教室へ出かけたところ、ランドセルを肩からおろしながら私を見つけてはっと驚き、ひと呼吸してワーンと泣きだした女の子がいました。
私も何となく胸がせまって涙ぐんだのですが、通りがかった隣の組の先生が「あんたなんで泣くが。先生に久しぶりに会えて嬉しかったがやろ!泣いたらダメ!先生に失礼や。」
と言って私の肩を軽く叩き「気にせんといて。」と出て行かれました。私は2年生の女の子かおりちゃんが、毎日私を待っていてくれたことを知っていたので、泣きじゃくる彼女を抱きしめ
「ありがとう。待っててくれたのね。」と言いました。やがて次々と登校して来る子達が「アー先生や。和田先生や。」と後ろの子に呼びかけたり、腕にぶらさがったりして来ましたが、
中にはやはり涙ぐんでいる子もいました。大好きな子ども達に囲まれて幸せな一日がスタートしました。かおりちゃんが泣いたことを知った子達は「先生、かおりちゃんのお部屋に
あと何日で先生が学校へ来るってカレンダーあったよ。」「そうや、ずっと待っとったし泣いたんやね。」「嬉し涙やね。」「ボク、わかる。母さんが肺炎で入院した時、
一日早く退院して来たことがあったんや。泣いたもん、ボク。」「そうなんやて。痛い時、悲しい時だけじゃないがやて。なー。」と同意を求める子がいて、子どもの涙の複雑さを知らない
大人の話になった時、かおりちゃんが小声で「隣の組の先生、私のことどう思ったんやろ。和田先生のことイヤやと思ったんかな?」と言って来ました。気配りのあるかおりちゃんが愛おしくて
「大丈夫。3組の先生、かおりちゃんのこと大好きやしびっくりしただけや。」と言うと私の手を握り返して来ました。柔らかい手でした。