『思い出さがし』 ⑨小さな喪主
幼稚園が創設されて45年もたつと6000人を超える子ども達との出会いがあります。
その中に数人ですが小さな喪主の姿との悲しい出会いがありました。わずか5才の男の子が白い喪服を着て、通夜と葬儀に集まって下さった方々に頭を下げているのを見るのは辛いものです。涙をおさえて5才の男の子の手を握りしめて言葉を失った私に対して「園長先生、ボクのお父さん死んだんやぞ。でも、もうボク泣かん。」と言って私の手を握り返した子のことを忘れません。悲しみに耐えているのが唇のふるえでわかりました。残された者へのとてつもない大きな悲しみを感じました。葬儀の日、その子の父の友人が涙と共に叫んだお別れの言葉を思い出します。
「君に言う!安らかに眠れとは言わない。愛する妻と小さな子どもを残した君は、力強い魂となってこれから毎日彼らを守れ!決して眠ってならない!おれ達も応援するが君の魂こそが必要なんだよ!待っている。」
式場からしのび泣く声があがり読経の声と共に亡き人の棺のまわりを包み込みました。凛とした小さな喪主は母の前を力強く歩き、父の遺影をしっかりかかえて丁寧に一礼し車に乗り込んで行きました。
人生での最大の悲しみを自分の成長の糧として生きた子は世界に羽ばたいていると風の便りで聞いています。