学校法人 和田学園  認定こども園 青竜幼稚園

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前園長日記/和田節子ライブラリー

『思い出さがし』 240・いのち②

聞けば姉の生んだ女の子が産院から実家へ帰って来た日、彼は父や母が今か今かと待ちわびている姿をうっとうしいと思っていたらしく口をとがらせてアゴを前に突き出した不満気な顔でイヤイヤ玄関で待っていた様でした。やがて姉のご主人が車を家の前で止めると、後方のドアを大きく開けて姉に抱かれた赤ちゃんと共に降りて来て両親の迎える玄関の戸を開けて「ただいま。」と入って来たそうです。彼は何となく気恥ずかしくて茶の間に逃げてしまったそうです。若い男の子にとっては、そうなるかも知れないなと思っていましたが、自分とあまり年の離れていない姉の夫との関係もあったのでしょうか。でも早速買ったばかりのベビーベッドに寝かせると思っていたのに、両親が交互に抱き上げて「パパにそっくりの鼻やね。」とか「口元がママそっくりやね。」と言い合っているので、そばへ行けずウロウロしていると、姉が赤ちゃんを抱き上げて彼の腕の中にそっとおいて「ほら、叔父さんやぞ。勉強大好きな叔父さんやぞ。」と言ってくれたのです。赤ちゃんはピンク色の唇をモニョモニョさせてから、ぱっと目を開けたといいます。その反応は彼の中にわだかまっていた何かを振り払ってくれました。「こんな小さな生命が生きている。俺の腕の中で動いている!」何と表現していいかわからない思いがほとばしり出て泣きそうになったと言います。その彼を見るでもなく、どこか遠くを見つめて笑ったように見えた時、彼の心に自分を変えようという勇気が湧いて出たと言います。
2016年11月20日 23:58

『思い出さがし』 239・いのち①

10月3日の236・人のうわさ②で更新がなく不安な方も居られたかと思いますが諸事情のためお許しください。再開します。(人のうわさ③④は更新忘れでした。すみません。)
10月18日(日)に右腰を痛め歩くことも出来ず、その上、視神経の異常もあり休養をとることになり、1ヶ月も迷惑をかけてしまいました。お許し下さい。今後は無理をせずゆっくり歩いて行きたいと思っています。休んでいる時にも出会った子ども達のことで思い出し笑いをしたり、1人1人に話しかけている夢をみたり、時には落ち込んで明日を考えることのできない日もありましたが、子ども達に支えられて元気をもらいました。その上家族の心づかいは大きな支えになりました。1人でベッドの上にいる日がなかったことは病人に生きる力を与えてくれました。特に小さな命を輝かせている孫やひ孫の存在はまぶしい程私の心を励ましてくれました。小さな生命のことについて思い出すことが沢山あります。ある大学生が自分の未来について不安と苛立ちを持ち、学校へ行けなくなり引きこもってしまいました。その母親から相談を受けました。「もうすぐ姉が出産のため里帰りするので、部屋もないので大学生の息子はアパートを借りて1人暮らしをさせてやりたいと思うのですが…1人暮らしを望んでいるので。」とのことでした。私はすぐに「ノー!」と答えました。「どうして?」の問いに私は「とにかく赤ちゃんをみんなで迎えてあげて下さい。」と頼みました。2週間後、不登校の彼が私を訪ねて来ました。「先生!赤ちゃんて何て凄い力を持っているんでしょう。」いきなりの明るい声にびっくりでした。
2016年11月08日 23:59

『思い出さがし』 238・人のうわさ④

私の母は気丈な人でしたから「私行って来る!」と言ってYさんの家へ入って行きました。しばらくすると「警察の人でもないのに失礼でしょう。」という母のよく通る声が響きました。道行く人が1人2人と立ち止まりかけると黒い服の人達が「立ち止まるな。」と追い払っているのが見えました。小心者の私は、少し震えながら自分の家の玄関に腰をおろして様子を見ていました。「人のうわさだけで大の男が4人も来るなんて犯罪です。」と母の声が聞こえました。どうやらそんな勢いに負けたのか、4人の黒い集団は何も言わず一礼しYさんの家から出て行きました。母の解説によると、近くの町の真ん中にスーパーがオープンした所、中学生達が大量に買い物に来て、そのうちの何人かが万引きをしたとのこと。お調子者のYさんが目立ったのでしょうか。あの子はリーダーとして万引きをする力のある子だとうわさされていたらしいのです。友だちと楽しく色々さわってみたりする所を見られたのでしょう。万引き犯のターゲットとなり、閉店後万引きを取り締まっていた黒い人達の目に止まったらしいのです。明るい元気な子が友だちと文房具屋さんに入ることがなくなり、それが次のうわさを生むことになるのです。私にできることは、Yさんと本屋めぐりをしたり、文具を選んだりするところをみんなに見てもらうことでした。うわさが消えるのは8ヵ月後のことでした。
2016年11月08日 23:57

『思い出さがし』 237・人のうわさ③

いつも楽しい笑い声の絶えないYさん宅の雨戸が晴れた日でも閉じられる日がある時は突然やってきて、静かになりました。最初に気付いたのは隣の80才ぐらいの耳の遠いおばあさんでした。「せっちゃん、Yさんの家、誰か病気で入院したんかね?」と心配そうに声をかけて下さいました。私は言われて気が付き「そう言えばそうやね。元気なバレリーナのおばちゃんの声が聞こえんね。」と話していると「病気でなけりゃいいけど淋しいね。」とおばあさん。近くの畑で細々とおじいちゃんと野菜やお花を作っている老夫婦にとってはいつも明るい元気なお家の雨戸が閉じられて静かな様子が心配だったのでしょう。「お節介かも知らんけど回覧板でも持ってのぞいて見るわ。」と2、3日後Yさんの家を訪ねて行きました。Yさんの元気な声を期待して行った所、いつもユーモア一杯で母さんの白鳥の湖のバレリーナの話をしてくれたYさんが膝小僧を抱えて泣いていたそうです。Yさんは私より学年が3つ上で中学2年生でした。何があったのか聞き辛くて聞けなくて帰って来たおばあちゃんは「せっちゃん、それとなく聞いてやっていや、うち、やっぱり心配や。みんなおったけど返事にも元気がないし、何があったんやろね。」と何度も確かめてほしいと言って帰って行ったのです。ずるずると日を延ばしていると、ある日突然黒づくめの男の人達が4人Yさんの家にドカドカと入り込んで行きました。「長男はどこ行った!」大声が聞こえました。
2016年11月08日 23:55

『思い出さがし』 236・人のうわさ②

友人のYさんは実に話のうまい人でした。ユーモアを入れてとても印象的に話すので「私のかあさんね、自分のことをバレリーナなんだと錯覚してるの。この間の日曜日のお昼頃ね、バレエの白鳥の湖の舞台をテレビで見ていたらね、急にテレビの前で踊り出してさ、食卓の角につかまって足をドサッドサッと上げたり下ろしたりしてね、つま先で立ったつもりでイスの周りをグルグル回ってさ、画面の中にプリンスが現れるて目を閉じて上体を反らしてステップを踏む真似をして、食器棚にぶつかって顔をしかめながらテレビ画面を真似してたんや。お兄ちゃんは見ておれんと言うし、弟は止めてくれ家壊れると叫んどったんや。」と一気に話してくれたが「あーあ、母さんのバレリーナ姿は見たくないなー。」すっかりお疲れモード。私は「でも楽しいお母さんや。子どもの粗探しばっかりして叱ってばかりいる母親より格好いいと思うよ。」と言うと「楽しいけど困ったこともあるんや。家は古くて台風が来ると目張りをしたり、ベニヤ板を打ち付けたりで大変なんや。」とため息をついていました。この楽しい母さんのことが色々な形でこの家族を追いつめることになったのが噂でした。子どもに暴力をふるう母親という辛い噂が流れ始めたのです。ストップザ噂に立ち向かう家族の姿の応援は半年間もかかりました。
2016年10月03日 23:58

『思い出さがし』 235・人のうわさ①

く夏休みのある日、一本の電話がかかって来ました。「もしもし。」と名のろうとしたら「あっごめんなさい。先生が直接出られたのでびっくりしました。」と早口で「すみません、すみません。私の思い違いでした。」と何度も謝って受話器を置かれた様です。どんなことがごめんなさいなのかさっぱり分からず色々イメージしている時に、また電話のベル。「もしもし和田です。」と受け取ると「あら、先生。園長先生ですよね。すみません。もうお辞めになって園に出て来ていらっしゃらないって聞いて、確かめようと思って電話をかけさせてもらいました。ごめんなさい。亡くなったと聞いてもいないし、入院されたんかと心配してたんです。」と明るい声が返ってきました。一本目の電話は園長が亡くなったという噂に驚いてお掛けになったのでしょう。二本の電話は聞き覚えのあるOBの方のようでした。懐かしい思いで受話器を置きました。かつて入院中の私の友人が「たった3日間の食あたりの入院だったのに死んだことになっていて、主人が見知らぬご婦人からお悔やみを言われたことがあったねよ。だから伝わったことなのか、噂って怖いなぁ。」としみじみ話しとくれたこと思い出しました。話術の見事な友人の言葉に相づちを打っただけでさも事実の様に伝えられた思い出があります。
2016年09月25日 23:58

『思い出さがし』 234・子どものつぶやき③

親がけんかをした日のことを、子ども達はよく覚えていて、その時の気持ちを伝えてくれる。幼稚園児は「ママ泣いて2階へ行った。」とか「パパお茶碗投げた。」とか現象を話してくれるが、小学生になるとその時の気持ちも話してくれる。「やばい!ママだんだん声が高くなったと思ったらやっぱり頭のてっぺんから声が出て、玄関の戸をピシャッと閉めて出て行った。なんかお芝居を見とる様やけど悲しくてショックだった。帰ってこんかったらどうしようと妹と一緒に裸足で外に出た。」等リアルに語り目のふちを赤くしています。「妹さんと一緒やと心強いね。」と言うと「そうなんや、1人やったら僕泣いて暴れたと思う。」妹と手をつないで表をウロウロしていたらパパが迎えに来てくれて「ごめんな。」と言って2人を抱き上げてくれたと話してくれる。妹ほまだ小さかったらしく「ママ、ママ。」と泣くのでそれにつられそうになってパパの腕をギュッとつかんだという。やっぱり泣くのは男の子じゃないんだというプライドがあるのだろう。「すごいな。兄ちゃんは強い。妹のこと守ったんだ。」とおませな女の子のクラスメイトに誉められたお兄ちゃんは、私の隣で小さくつぶやきました。「ぼくは心の中は大雨だったのに誰も分かってくれん。」声が少し震えていました。彼の手を握りしめるとギュッと握り返してくれました。
2016年09月18日 23:57

『思い出さがし』 233・子どものつぶやき②

絵本が大好きなA子ちゃんは、おとぎ話にも詳しくみんなに一目おかれていました。クラスの中でもいつも絵本を持ってお友だちと話をしている子でした。「A子ちゃん、今日はどんな絵本を持って来たの?」と先生に聞かれて少し恥ずかしそうに体をくねらせて「大きい組さんから借りて来たの。」と先生。「そうや。明日も貸してくれるって言うし、今日中に読まんとだめなんや。」とA子。「A子はすらすら読めるし、もし良かったらお友だちに読んであげてね。」と先生。「そんなら私、練習して来るし、この本、お家持って帰ってもいい?」とA子。「いいよ、いいよ。練習して上手に読める様になったら先生に知らせてね。朝のお始まりの時、お願いしたいしね。がんばってね。楽しみや。」と先生はA子の肩を抱き寄せて優しくポンポンと叩きました。嬉しそうに肩をすくめるA子。それを見ていた子ども達が「どんな本や?」とA子の胸に抱いている本を指して言いました。「えっ長い名前やね。」「か た あ し だ ちょう の エ ル フ」と一字一字を拾い読みする子が何人かいて「なんか難しそうやな。」A子はペラペラとページをめくって見せています。「字いっぱいやし面倒くさい。短いとオレ読めるけど、長いとスラスラと読めん。やっぱりAちゃん今度読んでね。」「頼んだよ。」「がんばって。」と言って集団が去って行きました。その後にA子と仲良しのB子が残りました。A子はページをめくって指で文字を押さえながら読み始めました。それを尻目にB子は私の横を通る時に呟いたのです。「ママに同じ絵本買ってもらおう。」静かな挑戦状と思えました。
2016年09月11日 23:57

『思い出さがし』 232・子どものつぶやき①

子どもはジャンケンが大好きです。勝ち負けの分からない年令の子もジャンケンというと飛んで来てグーやパーやチョキを出します。そして必ず「勝った!」と叫びます。グーチョキパーのどれを出しても自分が勝ったと思う年令の子の中に、勝ち負けの分かる子が入っていると当然ジャッジをします。「○○ちゃんはグーだから負けだよ。みんなパーを出したからね。」と説明します。するとグーを出した子はパーを出して「○○やっぱりパー出すし勝ったよ。」と後出しジャンケンを認めてほしいようです。「いいよいいよ。」と認めて「じゃ、もう1回しよう。」て年令的に上の子が優しく声をかけてくれると、みんな「よーし!」とかけ声をかけて「ジャンケンポン!」と2回目が始まります。4人の子ども達は一斉にパーを出しました。そして「みんな勝ったね。」という3才児に対して月齢の高い女の子が「みんな同じだからもう1回だよ。」と分別くさく言い含めます。さっきグーを出して負けた子は、パーを出したら勝つんだと思っていたらしく「みんな同じやったらあいこでしょ!ってわけ言うんだね。」と自分の知っていることを認めてほしくて得意気に言います。「そうや、あいこでしょ!っていうこと知っとったん?3才のお誕生日になったらやっぱりすごいね。」と女の子。「ぼく、すごいやろ。3才になったんやもん。」と皆の顔をひと通り見回してジャンプをしました。それを見ていた近くでおうちごっこをしていた年長さんの女の子がつぶやきました。「何でも分かるって嬉しいことやしわかるわ。」そのしみじみとした言い方に思わず笑いが込み上げました。ーかわいいなぁー
2016年09月04日 23:57

『思い出さがし』 231・夏の海③

楽しい海辺での遊びは夕方の太陽を見送ることで終わりました。ヒリヒリと日焼けした身体は少し触られただけでも悲鳴をあげるほど痛みました。今の様にマイカーで帰る時代ではなかったので、満員電車に詰め込まれてイヤな気分で帰った日を思い出します。でも太陽と砂との出会いは嬉しいもので、疲れた身体にとって、電車の揺れに合わせて眠ることはわずかな時間でしたが、夏の思い出として大切にしたいと思いました。でも悲しいこともありました。遠浅の海でも所々砂がえぐられて穴の様にそこだけ深くなっている所がありました。見張り台の上でアルバイトの大学生が何やら大声で叫び、メガフォンで呼びかける姿を見て、友人達と波に揺られていた私達は急いで岸の方へ歩いて行きました。波打ち際で消防の人達が担架を持ち運んで来ていました。そのすぐ横で小学生高学年の子らしい男の子が人工呼吸をされているのが人だかりの足の間から見えました。「水は吐いたよ。」「もう少しや、頑張れ。」という声が聞こえました。祈る様にして手を合わせ座り込んでいる母親らしい人の姿もチラリと見えました。子どもの名前でしょうか「よういち!よういち!」と必死な声が聞こえました。夕日がすっかり落ちて水平線から赤い色が消えた頃、泣き叫ぶ母親の声が海を渡っていきました。救急車のサイレンが聞こえた頃には家族の悲しみの声が帰る私達の心を重くしていました。
2016年08月29日 23:58

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